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カテゴリ: 投資

トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期(中間期)連結業績報告:地政学リスクと構造改革の岐路

第I部:エグゼクティブ・サマリー(経営層向け要約)

1.1. 要約と主要な結論

トヨタ自動車が2025年11月5日に発表した2026年3月期 第2四半期(中間期:2025年4月1日~9月30日)の連結決算は、増収減益という複雑な構造を示しました 1。連結販売台数はグローバルで5.0%増加し、営業収益は5.8%増の24兆6,307億円と堅調に伸びましたが 3、営業利益(OP)は前年中間期比で18.6%減の2兆56億円となりました 3

この大幅な減益の主因は、成長投資の継続や人件費高騰を含む巨額の「諸経費の増減・低減努力」によるマイナス影響(△1兆750億円)であり、これが為替変動によるマイナス影響(△3,900億円)と重なり、営業面の努力(+6,450億円)による増益効果を相殺しきれなかったことに起因します 4

将来的な収益構造に対する最大の脅威は、通期業績予想に織り込まれた地政学的リスクです。会社は、通期の営業利益予想(3.4兆円)を公表するにあたり、米国における関税政策の影響として通期で1兆4,500億円の減益影響を見込んでいることを明示しました 4。この外部要因は、現在の収益構造に対する最大の下押し圧力であり、企業が構造的なコスト削減と生産性向上を急務とする戦略的転換点にあることを示唆しています。特に、通常高収益源であるはずの北米市場が中間期で営業損失(△678億円)を計上したことは 4、短期的なコスト管理だけでなく、抜本的な収益構造改革が不可避であることを強く示しています。

1.2. 投資家向けハイライト(主要KPI)

2026年3月期 中間連結会計期間の主要財務指標は以下の通りです。

FY2026 Q2 連結中間期 業績ハイライト

項目2026年3月期 Q2実績 (億円)前年同期比 (億円)増減率 (%)
営業収益246,307+13,546+5.8
営業利益 (OP)20,056△4,585△18.6
親会社所有者帰属中間利益17,734△1,330△7.0
基本的1株当たり中間利益 (EPS)136円07銭△6円08銭N/A

第II部:連結業績の詳細分析(2026年3月期 第2四半期)

2.1. 連結損益計算書の概観と増収減益の構造

2026年3月期の中間期連結業績は、営業収益が5.8%の増加を達成しつつも、営業利益が18.6%減少するという、売上好調と収益性悪化の乖離が目立つ結果となりました 3。これは、自動車事業の販売増加や商品構成の改善がもたらす増収効果が、コストの急激な増加によって相殺されたことを示しています。

親会社の所有者に帰属する中間利益は1兆7,734億円で、前年中間期比で7.0%の減少にとどまりました 2。この純利益の減少率(△7.0%)が営業利益の減少率(△18.6%)よりも大幅に小さい点は、注目に値します。この差異は、金融サービス事業の健闘、持ち分法による投資収益、または税効果など、営業外収益が連結利益を下支えした可能性を示唆しています。言い換えれば、自動車販売による本業の収益性は圧迫されているものの、グループ全体としてのバリューチェーン事業や財務的なレジリエンスが、連結業績の急激な悪化を防ぐ緩衝材として機能したことを裏付けています。

2.2. 一株当たり利益(EPS)の評価

基本的な1株当たり親会社の所有者に帰属する中間利益(EPS)は、2026年3月期中間期で136円07銭を計上しました 4。これは、前年中間期の142円15銭から6円08銭の減少であり、約4.3%の低下となります 4

このEPSの減少率(約4.3%)が、純利益の減少率(7.0%)よりも穏やかであるという事実は、企業が積極的な財務管理を行っている可能性を示しています。株主価値の維持に向けた取り組みの一環として、自社株買いなどの株主還元策が中間会計期間内に効力を発揮したか、あるいは発行済株式総数の微減が寄与したと考えられます。これは、本業の収益性が低下する局面においても、財務部門が株主価値の希薄化を最小限に抑えようとするコミットメントを維持していることの指標となります。

第III部:営業利益の変動要因分析とコスト構造の評価

3.1. 営業利益増減要因の定量分析

中間期の営業利益は、前年同期比で4,585億円の減益となりました 4。この増減は、以下の4つの主要因に分解して分析することができます。

2026年3月期 Q2 営業利益増減要因(対前年中間期)

要因増減額(億円)要因の内訳/備考
営業面の努力+6,450販売台数増、商品ミックス改善(高単価モデルシフトなど)
為替変動の影響△3,900円高進行によるマイナス影響
原価改善の努力△700継続的なコストダウン活動の困難さ
諸経費の増減・低減努力△10,750成長投資、人件費増、生産準備費用、関税影響など
その他+4,315金融事業収益、持ち分法利益など
合計(営業利益増減)△4,585前年比 △18.6%の減益

分析によると、営業面の努力による増益額(+6,450億円)は極めて大きく、強い商品力とグローバル販売台数(5.0%増)に裏打ちされています 4。しかし、この努力を為替変動(△3,900億円)と、特に諸経費の増加(△10,750億円)が大きく上回ったことが、減益の決定的な要因となりました。

3.2. 構造的コスト圧力の深刻化(諸経費の増加)

営業利益の変動要因の中で、単独で最大のマイナス影響を与えたのが、1兆750億円に上る「諸経費の増減・低減努力」の項目です 4。この中には、設計面の改善(△1,100億円)が含まれているものの、その大半は将来に向けた「総合投資」と、構造的なコスト上昇圧力に起因していると考えられます。会社は、この期間において、未来への投資として「人への投資」(△2,250億円)と「成長領域への投資」(△2,450億円)を合わせて約4,700億円を計上しており 2、これらが現在の収益を強く圧迫しています。

さらに重要な点として、「原価改善の努力」が△700億円とマイナス計上されていることが挙げられます 4。自動車業界、特にトヨタ生産方式(TPS)を採用する企業において、原価改善は通常、生産効率化や設計変更を通じてプラスに寄与する項目です。この項目がマイナスに転じていることは、従来の継続的改善活動が、原材料費や物流費、さらには新しい電動車部品などの高コスト領域における構造的な費用上昇を吸収しきれていないことを示唆しています。これは、現在の収益性低下が、一時的な外部環境の変化だけでなく、未来への投資と、伝統的な製造業としてのコスト競争力の維持という二つの難題に同時に直面している、より深い構造的な問題であることを明確に示しています。

第IV部:事業セグメントおよび地域別収益性の検証

4.1. 自動車事業 vs. 金融サービス事業の比較

セグメント別の分析では、自動車事業の収益性の深刻な悪化が浮き彫りになりました。自動車事業の営業収益は22兆1,005億円と4.8%増加したものの、営業利益は1兆4,854億円にとどまり、前年中間期から28.2%もの大幅な減益となりました 4。この減益もまた、主に「諸経費の増加」に起因しています 4

対照的に、金融サービス事業を含む「バリューチェーン収益」の拡大が連結利益を支える重要な要素となりました。営業利益増減要因の「その他」(+4,315億円)には金融事業の収益が含まれており 4、新車販売で利益を確保する従来のモデルに加え、アフターサービス、部品、金融、中古車などのバリューチェーン事業の強化 2 が、不安定な市場環境下での収益安定化に不可欠であることを証明しています。

4.2. 地域別連結販売台数の推移

グローバル市場におけるトヨタ車の需要は引き続き堅調です。連結販売台数は、日本国内で97万台(3.3%増)、海外で381万3千台(5.4%増)を記録し、合計で478万3千台(5.0%増)となりました 4。強い商品力と生産の安定化努力 2 が、販売台数増加という形で明確な成果を上げています。

4.3. 地域別営業利益の急変:北米市場の重大な変化

地域別の営業利益の動向は、コスト構造の圧力が特定の地域に集中していることを示しています。

2026年3月期 Q2 地域別 営業利益比較

区分営業利益 (億円)前年同期比増減率 (%)主な変動要因
日本11,171△26.6諸経費の増加など
北米△678 (損失)N/A (赤字転落)諸経費の増加など
欧州2,007△7.0販売面での影響など
アジア4,442△9.4為替変動の影響など
その他の地域2,019+43.6営業面の努力など

最も深刻な変化は、通常は高収益を誇るはずの北米市場が、678億円の営業損失を計上し、赤字に転落した点です 4。北米市場の赤字転落は、単なる販売の微調整以上の構造的な問題を示唆しています。主な要因として挙げられている「諸経費の増加」は、現地生産コスト(人件費、原材料)の急激な高騰、およびサプライチェーンの混乱や生産調整に伴う固定費負担の増大に起因すると見られます。

この地域の赤字化は、将来的に米国関税政策が本格的に発動された場合、高収益地域での現地生産体制がその外部コストを吸収できなくなる可能性を先取りして警告しています。北米での営業損失は、トヨタのグローバルな収益基盤における新たな脆弱性として、最も警戒すべき財務指標です。

第V部:戦略的推進力:電動化、SDV、収益構造改革

5.1. 電動車販売戦略の現状とHEVへの依存

トヨタの「マルチパスウェイ」電動化戦略は、中間期実績においてその市場適合性を証明しています。電動車(HEV, PHEV, BEV, FCEV)の販売台数は累計で247.1万台となり、トヨタ・レクサス販売台数に占める比率は46.9%に達しました 2

内訳を見ると、ハイブリッド車(HEV)が227.1万台と引き続き販売を牽引し、前年同期比109.3%の伸びを示しています。バッテリー電気自動車(BEV)は10.1万台(前年同期比129.8%)と高い伸びを記録しましたが、全体に占める比率は依然として小さいです 2

通期見通しにおいても、電動化の構成比調整が見られます。電動車販売台数見通しは513.3万台と微増ながら、内訳ではBEVの予想が前回見通し比で89.9%と下方修正されました。一方でHEVの予想は上方修正されています 2。この調整は、世界のBEV需要の成長鈍化傾向を反映したものであり、現在の市場環境において高い収益性と需要の安定性を誇るHEVラインナップが、全体の電動化目標達成を支える戦略的原動力となっていることを裏付けています。

5.2. SDV戦略の具体化と「Arene」の役割

トヨタは、将来の収益基盤を強化するため、SDV(Software Defined Vehicle)戦略の実行を加速させています。その具体的な取り組みとして、年間100万台を販売する最量販グローバルモデルである新型RAV4に、ソフトウェアづくりプラットフォーム「Arene」を初めて搭載することが発表されました 2

この戦略的意義は極めて重大です。これは、ソフトウェア開発を効率化し、新車販売後のコネクティッドサービスやアップデートを通じて、既に2兆円規模に拡大しているバリューチェーン事業の収益をさらに強化することを目的としています 2。会社は、世界中の道と車から集まる膨大なデータを活用し、SDVをお客様と共に鍛え育てていくとしています。RAV4という中核モデルでの「Arene」の導入は、このSDV戦略が実験段階から量産・普及段階へ移行したことを示す、収益基盤強化へのコミットメントです。

5.3. 収益基盤強化へのコミットメントと損益分岐台数改善

営業利益が外部環境要因と成長投資によって圧迫される中、経営陣は収益構造の抜本的な改善に焦点を当てています。会社は、米国関税の影響も重なり、損益分岐台数(BEP)が直近2年間で大幅に上昇したことを明確に認識しています 2

これに対応するため、この上昇したBEPを再び低下基調に戻すことを最重要課題とし、「ヒト・モノ・カネの構えを見直し」、ムダのない正味作業を追求して生産性を向上させる、全社一丸となった取り組みを開始すると宣言しています 2。経営陣が「損益分岐台数の改善」にこだわる姿勢は、現在の高コスト構造が危機的な水準にあることの裏返しであり、将来的な関税リスクやインフレリスクに対する耐性を築くための、根本的な「足場固め」の必要性が高まっていることを示しています。

第VI部:通期業績予想と最大のリスク要因:米国関税政策の影響

6.1. 通期予想の概要と下方圧力の分析

2026年3月期の通期連結業績予想は、営業収益49兆円(対前期比+2.0%)、営業利益3.4兆円(対前期比△29.1%)と、前期比で大幅な減益を見込んでいます 4

中間期(Q1/Q2)で既に2兆56億円の営業利益を計上していることを鑑みると、下期(Q3/Q4)の営業利益見通しは約1兆4,000億円程度となります。これは中間期の実績と比較して大きく悪化する見通しであり、通期予想の下方圧力の強さを物語っています。この下期の見通しの厳しさは、地政学的なリスク、特に米国関税政策の影響が下期に本格的に収益に反映されることを反映しています。

6.2. 関税リスクの定量分析と企業努力の評価

通期業績見通しを最も支配しているのは、米国における関税政策の影響です。会社は、この関税政策が通期で営業利益に1兆4,500億円の減益影響をもたらすと織り込んでいます 4

この関税影響額(1.45兆円)が、通期の営業利益の対前期減益幅(約1.4兆円)とほぼ一致するという事実は、重要な分析的結論を導きます 5。この数値は、トヨタの企業努力(販売増、原価改善、コスト効率化)が、関税政策がなければ、インフレや成長投資によるコスト増をほぼ完全に吸収し、前期並み、あるいはそれを上回る利益水準を達成できたはずだという主張を定量的に裏付けています。

すなわち、トヨタの基礎的な収益創出力は強靭であるものの、その成果の全てが、企業では制御不能な地政学的リスク(関税)によって相殺され、現実の業績数値が著しく抑圧されている構造が明らかになりました。市場はこの現実の数字(3.4兆円)を評価するため、決算発表後には株価が下落しましたが 5、アナリストは、この「関税調整後」の営業利益(約4.85兆円相当)に着目し、トヨタの真の営業力を評価する必要があります。しかし、この主張が成立するためには、下期において、販売台数の伸びとコスト改善努力が計画通りに進捗することが前提となります。

第VII部:結論と戦略的推奨事項

7.1. トヨタの財務的レジリエンスと構造的脆弱性の総括

2026年3月期中間期のトヨタ自動車の業績は、グローバル販売の堅調さと、HEVを中心とした電動化戦略の市場適合性、そしてバリューチェーン事業による安定した収益基盤という、財務的レジリエンスの強さを示しました 2。特に、1.45兆円にも上る外部コスト(関税)を企業努力で吸収しようとする収益創出力は特筆に値します。

しかしながら、この強靭さは同時に以下の構造的脆弱性によって相殺されています。

  1. 高コスト体質への構造変化: 巨額の「諸経費の増加」(△1兆750億円)と、伝統的な「原価改善」がマイナスに転じた事実は 4、人件費、原材料費、未来への投資費用が収益構造を恒常的に圧迫し、高コスト体質への転換期にあることを示しています。

  2. 北米市場の赤字化: 最も重要な高収益地域での営業損失は、コスト管理と価格戦略に関して、地域別戦略の根本的な見直しが緊急に必要であることを示唆しています 4

  3. 地政学リスクの現実化: 通期予想を支配する米国関税リスクは、企業努力の限界を超える可能性を秘めており、収益予見性を著しく低下させています。

7.2. 専門家としての推奨事項

投資家は、トヨタが直面する二重の課題(関税リスクの吸収と構造的なコスト体質の改善)に対し、経営陣のコミットメントが定量的に具現化されているかを注視する必要があります。以下の戦略的論点の進捗を継続的に検証することが推奨されます。

  1. 北米市場の収益回復速度と質: 北米の営業利益がいつまでに黒字に復帰するのか、またその回復が、市場価格の上昇によるものか、あるいはコスト削減や生産効率の抜本的な改善によるものかを評価する必要があります。

  2. 損益分岐台数(BEP)改善の定量的成果: 経営陣がコミットしたBEP改善に向けた施策が、生産性の向上やムダの排除を通じて、具体的な数値としてどの程度進捗し、収益性に貢献しているかを、次期決算以降のIR資料や説明会を通じて厳しく検証する必要があります 2

  3. SDV(Arene)の収益貢献時期: RAV4へのArene搭載を皮切りに展開されるSDV戦略が、いつから、どの程度、バリューチェーン収益の拡大に貢献し始めるのか、その進捗を、コネクティッドサービスや部品販売の収益動向を通じて追跡することが重要です 2

  4. 電動化戦略のバランス: 市場の強い需要に支えられるHEVの生産能力の増強と、下方修正されたBEV販売目標の達成に向けた具体的施策とのバランスを評価し、規制対応と市場シェア獲得に向けたリスク分散が適切に行われているかを検証する必要があります。

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NTTの総合ICT事業の概要

NTT(日本電信電話株式会社)の総合ICT事業は、主にNTTドコモを中心としたセグメントで、通信インフラの提供からデジタルソリューション、スマートライフ領域までをカバーする包括的な事業です。2023年度の営業収益は約6,140億円、営業利益は約1,144億円を達成し、2024年度も増収増益を計画しています。主な焦点は、5Gや光アクセスなどのネットワーク基盤の強化、法人・コンシューマ向けDX(デジタルトランスフォーメーション)支援、グローバル展開の加速です。以下に、主要な内容をセグメント・事業領域ごとにまとめます。

主要セグメントと業績概要

セグメント主な内容2023年度実績(収益/利益)2024年度予想(収益/利益)
総合ICT事業全体モバイル・固定通信の統合、法人ソリューション、スマートライフの拡大。M&Aや料金プラン拡充で成長。6,140億円 / 1,144億円6,244億円 / 1,170億円
地域通信事業企業・自治体のDX支援、光アクセス卸提供。災害復旧やセキュリティ強化。3,183億円 / 438億円3,070億円 / 290億円
グローバル・ソリューション事業IT/Connectivity融合、生成AI活用のコンサル・システムインテグレーション。海外リージョン連携。4,367億円 / 310億円4,430億円 / 336億円
その他(不動産・エネルギー)ICT活用の街づくり、再エネ発電・電力小売。脱炭素社会支援。1,633億円 / 60億円1,680億円 / 23億円

主要事業領域とサービス

総合ICT事業の具体的な内容を、コンシューマ・法人・ネットワークの観点からリストアップします。各領域で先進技術(AI、IoT、5G、生成AI)を活用したサービスが中心です。

  • コンシューマ通信・スマートライフ事業:
    • モバイル通信: 5G SA(スタンドアローン方式)サービス(最大受信4.9Gbps)、ドコモ光(光アクセス、10Gbps対応エリア拡大)。
    • 料金プラン: 「ドコモポイ活プラン」(ahamo/eximo版)で決済利用に応じたdポイント付与、サービスミックス提案(通信+金融+映像)。
    • 新規領域: 金融・決済ソリューション、マーケティング、でんき、メディカル(SmartPRO®: ePROデータ収集で臨床試験支援)、XR(XR World®: メタバースでエンタメ・教育コンテンツ提供)。
  • 法人事業:
    • 大企業向け: 先進技術活用のソリューション(生成AI「tsuzumi」: Microsoft Azure上提供、業界未来構想コンサル)。
    • 中堅・中小企業向け: 業界別課題解決パッケージ(モバイル+IoT/AI)、地域公共DX支援。
    • 統合提供: NTTドコモ・NTTコミュニケーションズ・NTTコムウェアの「ドコモビジネス」ブランドでワンストップ(クラウド、セキュリティ、システム開発)。
  • ネットワーク・インフラ事業:
    • 5G/オープンRAN: OREX SAI(NTTドコモ・NEC合弁)で海外展開、OREX Packages(RAN/SMO/Servicesの組み合わせ)提供。
    • 移行・効率化: 固定電話IP網移行(2024年開始)、電話帳/番号案内終了(2026年3月、代替iタウンページ提供)。
    • グローバル: データセンター/マネージドサービス強化、ペイメント事業拡大(ASEANで決済端末48万台活用)。
  • その他の成長領域:
    • 不動産: NTTアーバンソリューションズによるICT活用街づくり(例: アーバンネット仙台中央ビル、コワーキングスペース)。
    • エネルギー: NTTアノードエナジーによる再エネ発電(太陽光/風力等)、アグリゲーション(蓄電池/EMSで需給調整)、電力小売。
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概要

定期借家制度は、2000年3月1日に施行された、契約で定めた期間が満了すると更新されることなく確定的に賃貸借契約が終了する制度である。従来の普通借家契約が、貸主からの更新拒絶に「正当事由」を要し、借主が希望すれば原則として契約が更新されるのに対し、定期借家契約は更新という概念自体が存在しない点が最大の違いである。

この制度は、貸主にとって契約期間や収益見通しが明確になり、賃貸経営の安定化に資することを目的として導入された。結果として、転勤中の持ち家活用や、取り壊し予定の建物の一時的な賃貸など、多様な形態での賃貸住宅供給が促進されることが期待されている。

定期借家契約を有効に成立させるためには、①書面による契約、②更新がない旨の特約の明記、③契約書とは別の書面による事前説明、という厳格な要件を満たす必要がある。これらの要件を一つでも欠くと、その契約は普通借家契約として扱われる。

借主にとっては、相場より割安な賃料で良質な物件に住める可能性がある、あるいは短期契約が可能であるといったメリットがある一方、原則として中途解約ができず、期間満了後も住み続けるには貸主との合意に基づく「再契約」が必要となり、居住の安定性に欠けるというデメリットも存在する。

詳細レポート

定期借家制度の創設と背景

定期借家制度は、1999年12月に成立した「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」に基づき、借地借家法の一部が改正されたことで創設され、2000年3月1日から施行された。

従来の普通借家契約では、借地借家法により借主の権利が手厚く保護されていた。貸主が契約の更新を拒絶するには、自ら建物を使用する必要性などの「正当事由」が必要とされ、その認定ハードルは非常に高かった。多くの場合、高額な立退料の支払いなしには契約を終了させることが困難であり、これが貸主にとって賃貸経営上の大きなリスクとなっていた。

このような状況が、ファミリー向けなどの良質な住宅が賃貸市場に出回りにくい一因とされていた。そこで、契約期間の満了によって確定的に契約が終了する定期借家制度を導入することで、貸主が安心して物件を貸し出せるようにし、賃貸住宅の供給を促進することが目的とされた。

定期借家制度の概要図

普通借家契約との比較

定期借家契約と普通借家契約は併存しており、新規契約時に貸主と借主の意思によって選択が可能である。両者の主な違いは以下の通りである。

項目定期借家契約普通借家契約
契約の更新更新という概念がなく、期間満了で確定的に終了する。双方の合意があれば「再契約」は可能。借主が希望すれば原則更新される。貸主からの更新拒絶には「正当事由」が必要。
契約期間自由に設定可能。1年未満の短期契約も有効。不確定な期限(例:「賃借人が死亡するまで」)は不可。1年以上の設定が必要。1年未満の契約は「期間の定めのない契約」とみなされる。
契約の締結方法公正証書等の書面による契約が必須。口頭契約は無効。契約方法に制限はなく、口頭でも成立する。
事前の説明義務契約書とは別に、「更新がなく期間満了で終了する」旨を記載した書面を交付し、事前に説明する義務がある。特になし。
中途解約(借主から)原則として不可。ただし、特約がある場合や、特定の条件下(後述)では可能。特約(通常は契約書に記載)に基づき可能。
賃料の増減額請求特約により、賃料の増減額請求権を排除することが可能。原則として可能。借主に不利な「減額しない」特約は無効。
期間満了の通知契約期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年前~6ヶ月前に終了通知が必要。貸主が更新を拒絶する場合、期間満了の1年前~6ヶ月前に通知が必要。通知がなければ自動更新される。

普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の比較図

定期借家契約の厳格な成立要件

定期借家契約を有効に成立させるためには、借地借家法第38条に定められた以下の要件をすべて満たす必要がある。これらの要件を満たさない場合、たとえ契約書の表題が「定期借家契約」となっていても、その契約は普通借家契約として扱われる。

1. 書面による契約
定期借家契約は、公正証書などの書面によって締結しなければならない。口頭での契約は認められない。2022年5月18日施行の改正借地借家法により、借主の承諾があれば、電子メールでの送付など電磁的方法による契約締結も可能となった。

2. 「契約の更新がない」旨の特約
契約書本文に、「本契約は、期間の満了により終了し、更新がない」という趣旨の条項を明確に記載する必要がある。更新料の支払条項や自動更新条項など、更新を前提とするような規定が契約書に存在すると、定期借家契約の成立が否定される可能性がある。

3. 事前の書面交付と説明
貸主は、契約を締結する「前」に、賃貸借契約書とは「別個独立」の書面を用いて、「この契約には更新がなく、期間満了によって終了する」旨を借主に交付し、説明しなければならない。

  • 説明の主体: 説明義務を負うのは貸主本人である。ただし、貸主が代理権を授与すれば、不動産仲介業者などが代理人として説明することも可能である。宅地建物取引業者が行う重要事項説明とは別のものであり、重要事項説明書との兼用は認められない。
  • 書面の独立性: 説明書面は、契約書案や契約書そのものとは別の、独立した書面でなければならないとされている。
  • 説明のタイミング: 契約締結と同時であっても、署名捺印より時間的に先立っていれば「あらかじめ」の要件を満たすと解されている。
  • 説明の方法: 書面交付後、電話での説明も認められている。

この事前説明義務は、借主が定期借家契約の性質を十分に理解し、不測の損害を被ることを防ぐために設けられた極めて重要な手続きである。

定期借家契約の成立要件イメージ

契約期間中のルール

中途解約

定期借家契約は、原則として契約期間中の中途解約は認められていない。これは、定められた期間の賃料収入を期待する貸主を保護するためである。しかし、以下の例外的なケースでは借主からの中途解約が可能となる。

  1. 解約権留保特約がある場合
    契約書に「借主は〇ヶ月前の予告により本契約を解約できる」といった中途解約を認める特約(解約権留保特約)があれば、その条項に従って解約できる。

  2. 借地借家法に基づく中途解約権の行使
    以下の3つの条件をすべて満たす場合、借主は解約の申し入れから1ヶ月後に契約を終了させることができる(借地借家法第38条第5項)。これは借主に不利な特約で排除することはできない。

    • 居住用の建物であること。事業用物件は対象外。
    • 建物の床面積が200㎡未満であること。
    • 転勤、療養、親族の介護など、やむを得ない事情により、その建物を生活の本拠として使用することが困難になったこと。
      「やむを得ない事情」に明確な定義はなく、個別の事情に応じて判断されるが、自己都合による自宅の購入などは一般的にこれに該当しないと解されている。
  3. 違約金の支払いによる解約
    上記のいずれにも該当しない場合でも、残存期間の賃料相当額を違約金として支払うことで、貸主との合意に基づき解約できる場合がある。

賃料増減額請求

普通借家契約では、経済事情の変動などにより賃料が不相当となった場合、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できる(借地借家法第32条)。しかし、定期借家契約においては、「賃料を改定しない」旨の特約(賃料改定特約)を設けることが可能であり、その特約がある場合は賃料増減額請求権が適用されない。

契約終了と再契約

期間満了による終了通知

契約期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、借主に対して「期間満了により賃貸借が終了する」旨を通知しなければならない。この通知を怠った場合、貸主は契約期間が満了しても、その終了を借主に対抗できない。

ただし、通知期間を過ぎてしまっても、貸主が通知を行えば、その通知日から6ヶ月が経過した時点で契約の終了を対抗できるようになる。契約期間が1年未満の場合は、この終了通知義務はない。

再契約の手続きと注意点

定期借家契約には「更新」という概念はないが、貸主と借主の双方が合意すれば、期間満了後に新たに契約を結び直す「再契約」は可能である。

再契約のイメージ

  • 再契約は新たな契約: 再契約は、あくまで従前の契約とは別の新たな契約である。したがって、再契約を定期借家契約とする場合も、初回契約時と同様に、書面での契約締結や事前説明といった成立要件を再度満たす必要がある。
  • 再契約の保証はない: 契約書に特別な定めがない限り、貸主に再契約に応じる義務はない。再契約できるかどうかは完全に貸主の意向次第であり、再契約時に賃料などの条件が変更される可能性もある。
  • 敷金・保証人の引継ぎ: 再契約は新たな契約であるため、従前の契約で預託された敷金や保証人の保証義務は当然には引き継がれない。敷金については「再契約後の債務を担保するために充当する」旨の特約を、保証人については再度署名・押印を得る必要がある。
  • 原状回復義務: 再契約を繰り返した場合、契約終了時の原状回復の基準時が「再契約時点」なのか「初回入居時」なのかが問題となりうる。トラブルを避けるため、原状回復の基準が初回入居時の状態であることを特約で明確にしておくことが望ましい。

貸主・借主から見たメリットとデメリット

貸主側の視点

  • メリット:
    • 契約期間満了時に確実に契約が終了するため、将来の計画が立てやすい。
    • 「正当事由」や立退料を考慮する必要がなく、安心して物件を貸し出せる。
    • 賃料改定特約により、賃料の安定収入が見込める。
  • デメリット:
    • 成立要件が厳格で、手続きを誤ると普通借家契約になってしまうリスクがある。
    • 手続きが煩雑なため、不動産業者が取り扱いを嫌がるケースがある。

借主側の視点

  • メリット:
    • 居住の安定性が低い分、近隣相場より家賃が割安に設定されていることがある。
    • 1年未満の短期契約も可能なため、転勤や仮住まいなど、期間限定のニーズに対応しやすい。
  • デメリット:
    • 契約期間が満了すると原則退去しなければならず、長期的な居住の保証がない。
    • 原則として中途解約ができないため、ライフプランの変更に柔軟に対応しにくい。
    • 再契約時には再度、仲介手数料などの初期費用が発生する可能性がある。

借主のメリットのイメージ

普通借家契約からの切り替え

既存の普通借家契約を、当事者の合意によって定期借家契約に切り替えることには、いくつかの制約と注意点がある。

  • 居住用建物の制限: 2000年3月1日より前から存在する「居住用」建物の普通借家契約については、当分の間、同一当事者間で定期借家契約に切り替えることは認められていない。この合意は無効とされる。
  • 事業用建物・新規契約: 事業用(店舗・事務所など)の賃貸借契約や、2000年3月1日以降に締結された普通借家契約については、当事者の合意があれば定期借家への切り替えが可能である。
  • 合意形成の注意点: 切り替えが法的に可能な場合でも、借主にとっては「更新がない」という点で不利な契約変更となる。そのため、貸主は借主がその不利な点を十分に理解・認識した上で合意していることを、交渉過程の書面などで明確に記録しておくことが、後のトラブルを避ける上で重要となる。
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概要

株式会社ドワンゴは、親会社である株式会社KADOKAWAのWebサービス事業および教育事業の中核を担っているが、近年は厳しい事業環境に直面している。特に、2024年6月に発生した大規模サイバー攻撃は、主力サービス「ニコニコ」の長期停止を引き起こし、KADOKAWAの2025年3月期連結業績において売上高で84億円、営業利益で64億円の減少影響をもたらす見通しである。

Webサービス事業の柱である「ニコニコ」は、プレミアム会員数が2016年のピーク時から減少し続け、2023年12月末には125万人にまで落ち込んでいる。アクティブユーザー数も減少傾向にあり、特に10代の利用率低下が顕著である。サイバー攻撃によるサービス停止はこの状況に追い打ちをかけ、2025年3月期第1四半期にはWebサービスセグメントが営業赤字に転落した。

一方で、ドワンゴが運営を支援する教育事業は好調を維持している。学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校・S高等学校の生徒数は増加を続けており、KADOKAWAの教育・EdTechセグメントの増収増益に大きく貢献している。

財務面では、ドワンゴ単体の詳細な最新決算は非公開だが、KADOKAWAの連結決算からその動向を窺い知ることができる。サイバー攻撃による特別損失計上など短期的な打撃は大きいものの、KADOKAWAはソニーグループとの資本業務提携強化や、グループ内エンジニアの集約・再配置を進めており、技術開発の加速とグローバル市場での成長を目指している。ニコニコ事業の再建と、好調な教育事業のさらなる伸長が、今後のドワンゴの業績を左右する鍵となる。

詳細レポート

KADOKAWAグループにおけるドワンゴの事業ポートフォリオ

ドワンゴは2014年に株式会社KADOKAWAと経営統合して以来、同社の完全子会社として事業を展開している。現在、ドワンゴの事業は主にKADOKAWAの「Webサービスセグメント」と「教育・EdTechセグメント」に組み込まれている。

KADOKAWAの2025年3月期決算(2025年5月8日発表)によると、セグメント別の営業利益ではゲーム事業が最も大きく、次いで出版・IP創出事業、アニメ・実写映像事業と続く。ドワンゴが中心となるWebサービス事業は、サイバー攻撃の影響で9億9800万円の営業赤字となり、KADOKAWA全体の収益の足を引っ張る形となった。

KADOKAWAのセグメント別業績

一方で、教育・EdTechセグメントは売上高151億1900万円(前年比12.9%増)、営業利益23億8200万円(同37.9%増)と好調で、ドワンゴが運営を担うN高・S高の生徒数増加が大きく貢献している。このように、ドワンゴはKADOKAWAグループ内で、収益の柱である教育事業と、再建が急務であるWebサービス事業という、対照的な二つの顔を持っている。

2024年大規模サイバー攻撃の甚大な影響

2024年6月8日に発生した大規模サイバー攻撃は、ドワンゴおよびKADOKAWAグループの業績に深刻な影響を与えた。この攻撃により、ニコニコ動画を含む関連サービスが約2ヶ月にわたり全面的に停止する事態に陥った。

KADOKAWAは、このインシデントが2025年3月期の通期連結業績に与える影響として、以下の見通しを発表している。

  • 売上高: 84億円の減少
  • 営業利益: 64億円の減少
  • 特別損失: 36億円(ニコニコサービスのクリエイター補償、調査・復旧費用など)

特にWebサービスセグメントへの打撃は大きく、2025年3月期第1四半期(2024年4月〜6月)の決算では、サイバー攻撃による売上高26億円、営業利益19億円の減少影響が発生した。これにより、同セグメントは営業赤字に転落した。

サイバー攻撃による業績影響の見通し

ドワンゴはインシデント対応として、セキュリティ改革を断行。AWSジャパンのカンファレンス「AWS Summit Japan」では、その取り組み内容を公開し、保護対象の全体把握、初動対応の重要性、継続的なセキュリティ投資の3点を強調した。サービスの復旧は2024年9月以降に本格化する見込みだが、失われたユーザーの信頼と収益機会を取り戻すには時間を要すると考えられる。

主要事業セグメントの業績分析

Webサービス事業(ニコニコ)の苦境

ドワンゴの根幹事業である「ニコニコ」は、長年にわたりユーザー離れの課題に直面している。

  • プレミアム会員数の減少: 収益の柱であるプレミアム会員数は、2016年3月末の256万人をピークに減少の一途をたどり、2024年9月時点のKADOKAWAの株主総会資料では98.9万人と、ついに100万人を割り込んだ。2024年3月からの料金改定後も減少傾向に歯止めはかかっておらず、サイバー攻撃前の2023年12月末時点で125万人となっている。

ニコニコのプレミアム会員数推移

  • アクティブユーザーとユーザー層の変化: DAU(デイリーアクティブユーザー)、MAU(マンスリーアクティブユーザー)ともに減少傾向にある。特に深刻なのは若年層の離脱で、ドワンゴの発表によると10代ユーザーのシェアは2.7%まで低下している。一方で、総務省の調査では10代の利用率は23.6%とされており、調査方法による乖離が見られるものの、かつての若者文化の発信地としての勢いは失われつつある。

ニコニコの年代別ユーザーシェア(ドワンゴ発表版)

  • 収益構造の課題: プレミアム会員収入の減少を補うため、クリエイターを支援する「ニコニコチャンネル」の有料会員収入が伸びており、一時はプレミアム会員費の減少をカバーしていた。しかし、サイバー攻撃によるサービス停止は、このチャンネル収入にも大きな打撃を与えた。YouTubeなど競合サービスとの機能差が縮まる中、ニコニコ独自の魅力を再構築し、ユーザー拡大と収益化に繋げることが急務となっている。

教育事業の持続的成長

Webサービス事業とは対照的に、ドワンゴが手掛ける教育事業はKADOKAWAグループの成長エンジンとなっている。

  • N高等学校・S高等学校の拡大: 学校法人角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校「N高等学校」「S高等学校」は生徒数を順調に伸ばし続けている。ドワンゴはこれらの学校に独自の教育コンテンツや学習システムを提供しており、生徒数の増加が直接収益に貢献している。新キャンパスの開設も積極的に進められており、今後も安定した成長が見込まれる。
  • 事業領域の拡大: 専門校を運営する株式会社バンタンでは、社会人コースの強化や展開地域の拡大により生徒数が増加。さらに2024年4月には「KADOKAWAアニメ・声優アカデミー」を開校するなど、KADOKAWAグループのIP資産を活用した新たな教育サービスを展開している。これらの取り組みにより、教育・EdTechセグメントは2025年3月期において前年比37.9%増という高い営業利益成長を達成した。

財務状況と将来性

ドワンゴは2014年10月のKADOKAWAとの経営統合に伴い上場廃止となったため、単体の詳細な財務諸表は公開されていない。しかし、KADOKAWAのIR情報や過去のデータから、その財務状況と将来性を考察することができる。

過去の財務データ(参考)
上場最終期に近い2014年9月期の連結業績予想では、売上高422億5100万円、営業利益31億6500万円と、増収増益を見込んでいた。当時のポータル事業(ニコニコ)は売上構成比の45%を占める主力事業だった。

決算期 (連結)売上高 (百万円)営業利益 (百万円)経常利益 (百万円)当期純利益 (百万円)
2011年9月期34,2981,6711,4731,238
2012年9月期36,2431,3451,284-506
2013年9月期35,9462,1302,2922,271
2014年9月期 (予想)42,2513,1653,2242,463
(出典: Kabutan, FISCOのデータを基に作成)

現在の課題と将来展望
現在のドワンゴは、サイバー攻撃からの復旧とWebサービス事業の根本的な立て直しという大きな課題を抱えている。KADOKAWAは2025年3月期の通期連結業績予想を下方修正しており、ドワンゴが属するWebサービスセグメントの不振が大きく影響している。

しかし、KADOKAWAグループ全体としては、成長に向けた布石も打たれている。

  • ソニーグループとの提携強化: 2024年11月には、ソニーグループがKADOKAWAへの追加出資を検討するなど、資本業務提携を深化させている。この提携により、KADOKAWAおよびドワンゴが持つIPのグローバル展開やゲーム事業での協業が加速することが期待される。
  • 技術体制の再編: KADOKAWAはグループ内のエンジニアリソースを集約・再配置し、開発効率の向上を目指している。これにより、ニコニコ動画の機能改善や新サービス開発のスピードアップが図られる見込みである。
  • データ活用の高度化: ドワンゴは以前からClouderaのプラットフォームを活用し、1ペタバイトを超えるユーザー生成コンテンツのデータを分析してきた。このデータ分析基盤を強化し、サービス改善や新たな価値創出に繋げることが、今後の成長に不可欠となる。

社員からは「新しい事業が生まれる体制が整っている」という肯定的な評価がある一方で、「ニコニコ動画から人が離れており厳しい」といった将来性を懸念する声も挙がっている。サイバー攻撃という未曾有の危機を乗り越え、好調な教育事業をさらに伸ばしつつ、主力のWebサービス事業をいかに再生させるか。ドワンゴは今、その経営手腕が問われる重要な岐路に立っている。

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概要

資生堂の2025年上半期(1-6月期)決算は、売上高が減少する一方で、利益は大幅に改善するという二面性のある結果となった。連結売上高は前年同期比7.6%減の4,698億円であったが、コア営業利益は構造改革とコスト管理が奏功し、同21.3%増の234億円に達した。純利益は95億円と、前年同期の1500万円から飛躍的に増加した。

この業績の背景には、地域およびブランドごとの著しいパフォーマンスの差異がある。国内事業では主力ブランドが好調を維持したものの、米州事業では買収したスキンケアブランド「ドランクエレファント」の深刻な不振が続き、売上が大幅に減少。これを受け、同社は米州法人で1割超に相当する約300人の人員削減という抜本的な対策に踏み切った。中国市場やトラベルリテール事業も依然として厳しい状況が続いている。

全体として、資生堂はコスト構造の最適化によって収益性を改善しつつあるが、米州事業の立て直しと主要海外市場の需要回復という大きな課題に直面しており、今後の成長戦略の実行力が問われる局面にある。

詳細レポート

2025年上半期 連結業績分析

2025年8月6日に発表された2025年12月期第2四半期累計(1-6月)の連結決算は、まだら模様の内容となった。

項目2025年上半期実績前年同期比
売上高4,698億円-7.6%
コア営業利益234億円+21.3%
営業利益181億円黒字転換(前年同期は27億円の赤字)
純利益95億円+63,467%(636倍)

売上高の減少は、主に中国市場の景気低迷、インバウンド消費の落ち込み、そして米州事業の不振が要因である。特に、後述するブランド「ドランクエレファント」の売上急減が大きく影響した。

一方で、コア営業利益および純利益の大幅な改善は、2024年に実施した日本での早期退職プログラムや店舗閉鎖といった構造改革の効果、および全社的なコスト管理努力が結実したものである。この結果、売上減にもかかわらず収益性は向上し、通期計画の最終利益60億円を上半期時点ですでに超過する結果となった。

資生堂本社ビル

地域別業績の動向

地域ごとに業績の明暗が明確に分かれている。

米州事業の深刻な不振と構造改革
米州事業は、資生堂にとって現在最も大きな課題を抱える地域となっている。上半期の売上高は前年同期比で9%から10.1%減少し、514億円となった。さらに、営業赤字は前年同期の25億円から58億円へと拡大した。

この不振の最大の要因は、2019年に買収したスキンケアブランド「ドランクエレファント」の失速である。業績悪化を受け、資生堂は厳しい決断を下した。2025年7月、米州法人の従業員に対し「広範囲かつ大規模な人員削減」を通告し、約300人(従業員の1割超)を削減した。この背景には、2024年を通じて事業実績が大幅に悪化し、2025年の見通しも厳しいという認識がある。

経営体制も刷新され、2025年4月には米州地域のCEOであったRon Gee氏が退任し、EMEA地域CEOのAlberto Noé氏が暫定的に後任を兼務している。

中国・トラベルリテール事業の課題
かつての成長エンジンであった中国事業およびトラベルリテール事業は、引き続き厳しい市場環境に直面している。中国の景気低迷と、それに伴う消費マインドの冷え込みが売上に影響を与えている。

この変動の激しい市場環境に対応するため、資生堂は2025年3月に組織再編を実施し、中国事業とトラベルリテール事業を統合した。これにより、意思決定の迅速化と収益性向上を目指している。

堅調な日本事業
海外事業が苦戦する一方、日本国内の事業は堅調に推移している。プレステージブランドである「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」、スキンケアブランド「ELIXIR(エリクシール)」などが売上を牽引した。特に「SHISEIDO」ブランドからリニューアル発売された美容液「アルティミューン」コレクションは、売上に大きく貢献している。

資生堂の美容液「アルティミューン」

ブランドポートフォリオの現状

ブランドごとにもパフォーマンスに大きな差が見られる。

「ドランクエレファント」の再建が急務
米州事業不振の象徴となっている「ドランクエレファント」は、上半期に売上が57%も減少し、第2四半期単体でも43%減と、極めて深刻な状況にある。第1四半期には65%減という急落を記録していた。

不振が続くドランクエレファントの製品群

社内での分析によれば、不振の原因は「明確な顧客理解に基づいたターゲティングの欠如」や「ブランド価値の不明確さ」、「競合との差別化を可能にする画期的なイノベーションの不足」などが挙げられている。

同社は2025年中に在庫整理やブランド価値の再定義を進め、2026年には製品の強みやマーチャンダイジングに焦点を当てた「ブランドリセットキャンペーン」を開始し、ブランドの立て直しを図る計画である。

好調を維持するブランド
一方で、他の主要ブランドは比較的安定した成長を見せている。

  • NARS: 上半期に2%増、第2四半期には7%増と成長が加速している。
  • クレ・ド・ポー ボーテ: 上半期、第2四半期ともに3%の増収を記録した。
  • Dr. Dennis Gross: 2024年に買収したこのブランドは、米州で一桁成長を達成している。

経営戦略と今後の見通し

資生堂は現在、収益性回復に向けた中期経営戦略「アクションプラン 2025-2026」を遂行中である。この計画は、ブランド基盤の強化、収益性の再構築、そして経営ガバナンスの強化を3つの柱としている。

同社は、これらの施策を通じて2026年には利益率7%への回復を目指している。上半期決算で示されたコスト構造の改善は、この計画が順調に進んでいることを示唆している。

しかし、通期の業績予想は、売上高9,950億円、最終利益60億円という当初の計画を据え置いており、下半期の市場環境、特に米州事業の動向には依然として不透明感が残る。成長戦略の具体化と、特に「ドランクエレファント」の再建が今後の業績回復の鍵を握っている。

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